友高波琉子(29歳)は、東京のさびれた商店街を歩き、目についたそば屋に入る。テレビのニュース速報で、女が転落した状態で見つかったこと、さらに自分が参考人として追われていることを知る。私を抱きしめ愛する母は、私を兄の名で呼ぶ。1981年4月、北関東のT市に暮らす主婦・友高知可子のもとに警察から電話がかかってくる。ひとり息子の波琉(小1)が池で溺れて死亡したという。不育症のため流産を繰り返していた知可子にとって、波琉は結婚8年目でやっと生まれた子供。波琉の誕生日と同じ日に子供を産むことで、波琉を復活させようと考える。波琉子の誕生後、兄の生まれ変わりと言われながら育った波琉子。誕生日には、兄と自分用のプレゼントを受け取り、ケーキには自分の年齢より7本多いろうそくが立てられた。「あなたの体も心も、あなたひとりのものではない」という母の言葉を受け入れ続け母の愛を乞う気持ち、母を憎む気持ちが生まれる。ある日知可子のもとに「さぞ、いい母親なのでしょうね」と一通の手紙が届くが……。一人の掛け替えのない息子の死。それによって歪んでしまった、二つの家族。悩み苦しむ三人の母親、自分の生命の意味を問う三人の子供。彼等が乞う愛、赦しをテーマに家族の愛を書き切る渾身のミステリー長篇。  ● 幻冬舎  予価   1,470円 

☆ 著者の他作品
熊金家のひとり娘
まさき としか
講談社
2011-04-12